日本は奇跡とも言われる高度成長経済によってめざましい発展をとげましたが、厳しい競争社会の原理はさまざまな「ストレス」を生み出しました、人々はそこから逃げ出すことはできずにストレスの虜になっているように思われます。このストレス学説は、オーストリア生まれのカナダの内分泌学者H.セリエが提唱(1936年から研究に着手)したもので、生体に対して一定以上の強い刺激(ストレッサー)を与えると、その種類に関係なく生体内にさまざまな変化が生じ、それに適応しようとする一連の反応が起こることを実験によって証明しました。そのような状態をストレスと呼んだのです。私たちは外界から毎日いろいろな刺激を受けています。そのなかには、快い刺激もあれば不快な刺激もあります。そして、生体はそれを巧みに調節し、目的にかなった反応をする一種の制御作用をもっています。生体に対してなんらかの意味で有害な刺激が加えられますと、それは感覚器から知覚神経系を介して大脳皮質に働き、ついで視床下部および視床の興奮を引き起こし、さらに脳下垂体を刺激してそこからホルモンが分泌されます。そして、このホルモンは副腎皮質に作用して、さらにそこから内分泌系や自律神経系を介して身体内のいろいろな器官を調節し、外部のストレスが生体に与える有害な影響を最小限に食い止めようとします。これがセリエの提唱した「ストレス学説」のあらましです。
 生体が外界から受けるさまざまな刺激のうち、不快と感じるストレスは次のようなものがあります。
@物理・化学的因子―外傷、寒冷、酷暑、凍傷、火傷、放射線。
A生理的因子―
飢餓、感染、過労。
B精神的因子―
社会生活や家庭生活によって生ずるいろいろな思い煩い、不安、恐怖。

 一方、これとは反対に快いストレスがあるのだそうです。それは、幸福感、充足感、安心感などの心理的効果を持つものです。これらがあまりにも充たされますと、その反動としてかえって不安感、恐怖感が頭をもたげ、無気力、倦怠感、焦燥感に陥ることもあります。ストレスから解放されて、皮肉にも抑うつ状態になることあり、人間は生きているかぎり、多かれ少なかれどちらに転んでもストレスからのがれられない運命におかれているような気がします。
 このセリエ教授のもとでストレス学説を研究していたA.Cフォンダーは、ストレスについて長く研究しているうちに、
口腔系、とくに不正咬合(悪い噛み合わせ)や顎関節症を持つ人々に頭痛や耳鳴り、めまい、そして精神的に不安定な症状があることに気がつき、これを歯原性ストレス症候群と名づけました。つまり、むし歯や歯槽のうろう、歯ならびの悪さなどによって噛み合わせの異常をきたし、それがあごの負担を招き、あごの関節に障害をおよぼし、さまざまな不定愁訴(原因のはっきりしない症状を訴えること)の原因になることがわかってきたのです。

■自己チェックでストレス診断を
下表でときどきチェックして、あてはまることが多いときは、気分転換、休養を心がけましょう。
01 なんとなく気持ちがムシャクシャする 13 根気がない
02 大声でわめきたくなる 14 同僚、上司、近所の人に何か言われているようでならない
03 何を見ても、何をしてもおもしろくない 15 人のことがねたましい
04 家へ帰ってもくつろげない 16 1つのことが頭にこびりついてはなれない
05 気がつくと貧乏ゆすりしている 17 度忘れ、物忘れが気になり、何度も確かめないと不安でならない
06 隣近所の物音が気になって仕方がない 18 成人病が気になる
07 寝付きが悪く、寝てもすぐ目がさめる 19 動悸がしたり、息苦しくなったりする
08 明けがた目がさめてしまい、朝まで眠れない 20 胃腸の調子が悪い
09 イヤな夢をみる 21 何を食べてもおいしくない
10 朝起きて、頭がスッキリしないし、体もだるい 22 酒の量がふえ、つい度をこす
11 会社へいくのに気が重い 23 タバコをやたらに吸う
12 仕事に気がのらない

出典
磯村 寿賀人
『おもしろい歯のはなし 60話』 大月書店