歯から見た人間の歴史を過去から現在のところまでお話ししました。そこで気になるのは子どもたちのことですが、昨今の少年犯罪の多発と低年齢化、凶悪化が、深刻な社会問題として暗い影を投げかけています。いつの時代においても、年長者の胸の中には「近ごろの若い者は!」という不平、不満、愚痴、小言が渦まいているようです。今から10〜20年前の新聞を見ても、そのころから子どもの異変がひんぱんにとりあげられていました。「腹痛、はきけ、登校拒否、赤信号の子どもたち」「10代の体力低下続く」「わが子の暴力」「自殺の異常な増加」「いじめ深刻化」というような、現在とあまり変わらない状況がありました。
 その原因がどこにあるのか、百家争鳴、さまざまなことがいわれてきました。以前は食品添加物、最近は環境ホルモンなどもとりざたされています。そこで、歯と子どもたちの健康が時代の流れの中でどのようにかかわりあってきたかを、終戦後から振り返ってみるのも意義のあることと思います。

出典
磯村 寿賀人
『おもしろい歯のはなし 60話』 大月書店