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シリーズ歯科 歯と全身の病1
歯周病と糖尿「負の連鎖」
埼玉県に住む大学名誉教授Aさん(69)は、50歳を過ぎたころから、健康診断の度に「糖尿病の境界型」と指摘された。
血糖値は、空腹時に110J/O未満が正常とされるが、Aさんの数値は110前後を行ったり来たり。だが、当時はもっと深刻な悩みがあった。歯周病だ。
歯茎がひどく腫れ、果物などをかじると必ず出血する。歯のぐらつきも気になった。近所の歯科医院で、歯茎を切ってうみを出す処置や、歯周病菌の死がいなどが固まった歯石を除去する治療を受けたが、腫れがすぐに再発した。
「すべて抜くしかありませんね」。2002年末、歯科医院でそう宣告され、新年早々、慌てて駆け込んだのが日本歯科大病院(東京都千代田区)。その時、歯周病だけでなく、以前の治療のためか、歯がひどく痛んだ状態だった。
歯周病の治療は、歯と歯茎のすき間の歯周ポケットにたまった歯石や歯周病菌を、スケーラーと呼ばれる器具でかき出す方法が一般的だが、何度も繰り返すと歯を痛める。
Aさんの歯は、特に前歯の損傷が大きく、同病院では歯石除去を最小限にとどめた。代わりに、先端が高速で振動する超音波スケーラーを使い、微少な酸素の泡を歯茎のすき間などに吹き付けて、歯周病菌を殺す治療を行った。
自宅で丁寧な歯磨きも心がけ、歯を1本も抜くことなく、歯周病菌が減った。
すると、歯茎の出血や歯のぐらつきがなくなったばかりか、思いがけない変化が起こった。
「血糖値が80〜90で安定したんです」
糖尿病と歯周病。全く別の二つの病気が「互いに病気を悪化させる要因になっている」と同大名誉教授の鴨井久一さんは指摘する。
重い歯周病を持つ糖尿病患者を対象に、鴨井さんらが行った調査では、抗菌薬などで歯周病治療を入念に行った患者ほど、血糖値が下がる傾向がみられた。
しかしなぜ、歯周病で血糖値が変動するのか。鴨井さんは「歯茎の炎症で生じる物質や、歯周病菌が出す毒素の影響」と推測する。これらが血管内に入り込み、肝臓や脂肪細胞などに作用して、血糖値を下げるホルモンのインスリンを作りにくくするというのだ。
こうして血糖値が上がると、歯茎も高血糖状態になり、歯周組織の破壊が進行。歯周病菌がさらに増え、糖尿病が悪化する「負の連鎖」に陥る。
糖尿病患者の診察時に、歯の状態まで診る内科医は多くない。だが、歯茎の腫れなどが気になる場合、血糖値を下げる薬物治療だけでなく、歯周病治療も試す価値がありそうだ。
2005年11月22日の読売新聞より |
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