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シリーズ歯科 歯と全身の病2
かみ合わせで耳痛、難聴

 「津軽の花」や「木曽路の女」などのヒット曲で知られる演歌歌手の原田悠里さんは、NHK紅白歌合戦に3年連続出場した2001年ごろから、奥歯の激しい痛みに悩まされた。
 全国公演で過密なスケジュールをこなす度に歯茎が腫れ、「口を開けられないほどの痛み」が襲った。さらに深刻だったのは、聴力の低下だった。
 「自分の声がはっきり聞こえなければ歌えない」。抜群の歌唱力を持つ原田さんだが、当時はステージの最中に不安に襲われ、「音は合ってる?」とスタッフに尋ねるほどだった。難聴の治療で処方された薬も、副作用でめまいが出て、飲み続けられなかった。
 歯の治療では、2003年から東京都港区の長坂歯科に通った。歯の病気が体に与える影響を調べる同歯科では、治療の前後に患者の聴力を測定している。原田さんの聴力は当初、左耳が低下していた。
 ところが、虫歯や歯周病の治療の合間に「食べ物を左右の歯で均等にかむ」などの咀嚼指導を受け、半年後に聴力が回復した。
 新曲「沙(すな)の川」が好調な原田さんの聴力は、今も正常レベルを維持。「万全の体調」でステージに臨む。
 東京歯科大の調査では、軽度難聴の傾向がみられた患者83人に、入れ歯や虫歯の治療と咀嚼指導を行ったところ、約半数の人の聴力が改善した。同大歯科は「適切なかみ合わせで顎関節の負担が減ったことなどが関係しているのでは」と、耳鼻科との共同調査を進めている。
 耳の機能変化を調べて、適切なかみ合わせの位置を見つけ出し、顎関節症を治療する試みも始まった。
日本大学松戸歯学部教授の松本敏彦さんが考案した方法で、中耳の伝音機能を機械で確認しながら、歯に樹脂や金属のプレートをかぶせる治療を行い、この伝音機能が最も良くなる位置に下あごを調整する。すると、顎関節の痛みや耳痛、耳鳴りなどが消える例が相次ぎ、03年、耳症状を伴う顎関節症の治療法として高度先進医療に認められた。
 松本さんは「あごや顎関節は、胎児期に中耳の骨から生まれる。耳とあごには共通の神経や血管があり、あごの異常が耳に及びやすいのではないか」とみる。
 あごと耳の機能異常の関係は、実は20世紀前半に米国の耳鼻科医らが報告したが、長らく注目されなかった。原因不明の耳痛や耳鳴りに悩む人は多いだけに、解明が待たれる。



顎関節症
 かみ合わせが良くないことなどをきっかけに、顎関節にずれや変形が起こり、激しい痛みや口が大きく開かないなどの症状が現れる。耳痛や耳鳴り、難聴などの耳症状をはじめ、頭痛や腰痛、肩こりなど体の各所に影響が及ぶこともあるとされる。


2005年11月23日の読売新聞より