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シリーズ歯科 歯と全身の病3
“ズレ”解消 ペダルに全力

 小学生の時、初めて行った自宅近くの豊橋競輪場(愛知県豊橋市)。大声援を背に、トラックを疾走する銀輪がまぶしかった。
 「自転車で、誰よりも速く走りたい」
 そう夢見た少年は、20年後の今、日本を代表する自転車選手となった。
 金子貴志さん(30)。今夏、競輪で通算200勝を達成。ロシアで今月開催されたワールドカップでは、スプリント部門で銅メダルを獲得し、来春フランスで開かれる世界選手権の出場権を得た。
 1995年にデビュー、勝ち星を重ねた。しかし、3年目にスランプに陥る。結果を出そうと過酷な練習を重ねるほどに、原因不明の左側頭部の片頭痛が激しくなり、体調を崩した。
 「歯の治療後に調子を取り戻した競輪選手がいる」と聞いた。早速、同県高浜市の港デンタルクリニックを受診した。
 力を振り絞る時、人は歯を食いしばる。この時、かみ合わせにずれがあると力を出し切れない。日常生活では問題なくても、競技の世界では命取りになる。
 同クリニックの歯科医、中村昭二さんが重視するのが、中央の前歯から数えて左右の5番目と6番目の上下の歯。「かむ時に力が集中する部分。ここがずれると、十分な力を発揮できない」という。
 金子さんは、左下の5番目の歯が内側に傾き、上の歯とかみ合っていなかった。そこで上の5番目の歯に樹脂のレジンをかぶせ、近くの歯を少し削ってバランスを整えた。
 治療後の練習で効果を実感した。筋力トレーニングなどで、かつてない力を出せるようになり、激しい練習後も片頭痛が起こらなくなったのだ。
 以前の片頭痛も「かみ合わせのずれが原因」と中村さんはみる。中村さんらが1400人に行った調査では、かみ合わせの悪い人は頭痛の頻度が顕著に高かった。「かみ合わせが悪いと、あごから側頭部にかけての筋肉や、首の後ろの筋肉が過度に緊張して頭痛の原因になる」とみる。
 慢性的な頭痛は脳腫瘍などでも起き、鑑別のための検査が欠かせないが、原因不明の頭痛が、かみ合わせの治療で治まることは少なくない。
 金子さんは、今も定期的に治療を受ける。咬合紙をかみ、歯形を確認する。その紙の厚さは、通常よりはるかに薄い100分の1ミリ。微妙な変化を見逃さず、かみ合わせを整える。
 スピードの限界を競うスポーツ選手を、歯科医の技が支える。



スポーツと歯科
 選手同士が接触する競技で、口のけがや脳しんとうなどを防ぐため、歯に装着するマウスガードを製作する「スポーツ歯科」が増えている。マウスガードは、各選手の適切なかみ合わせを考慮して作ることが大切だ。


2005年11月24日の読売新聞より