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シリーズ歯科 歯と全身の病4
歯周病菌 標的は血管

 スニーカーのかかとに指をあて、足を入れた時、靴と足の間に挟まれた右手中指の先が、血に染まった。
 つめの部分がちぎれ、切断面から骨が見えた。川崎市のBさん(25)が、20歳の時のことだ。手や足の末梢(まっしょう)血管が詰まり、ひどくなると指先などが腐る難病「バージャー病」が原因だった。
 指先は数か月前から化膿していたが、強い痛みはなく、放置していた。今年になると、右足の甲や指が紫色になって激しく痛み、右足の指1本を切断しなければならなかった。
 東京都のCさん(56)も2年前からバージャー病が重くなり、9本の手指を次々になくした。Bさんは調理師の夢をあきらめ、Cさんは測量の仕事を失った。
 2人はバージャー病以外にも共通点がある。歯茎が後退して歯がぐらつくなどの重い歯周病。それに喫煙者だった。
 主治医の東京医科歯科大血管外科教授の岩井武尚さんは今夏、「バージャー病と歯周病、喫煙には密接な関係がある」と発表した。
 岩井さんらがバージャー病患者を調べたところ、全員が歯周病で、いずれも中程度から重症だった。患者の足などから採取した血管組織14個のうち、13個から歯周病菌が発見された。
 歯や歯茎のすき間にとりつく歯周病菌は、歯肉炎や歯周炎の原因として知られる。ところが、国立保健医療科学院口腔保健部長の花田信弘さんは「歯周病菌の“標的”は歯茎ではない。大好物の鉄分が豊富な血管に入り込もうと狙っている」と語る。
 歯周病菌は酸素に弱く、酸素が運ばれる血管内では長く生きられないという見方もある。だが、酸素を避けるように血液中の血小板に潜り込む様子が、実験で確認されている。たとえ死んでも「死骸を核に、血管を詰まらせる血栓ができたり、血管の炎症の原因になったりする可能性がある」と岩井さんは指摘する。
 脂肪やコレステロールなどが付着し、詰まり始めた中高年の血管にも「歯周病菌はとりつきやすい」と岩井さんはみる。歯周病菌は、糖尿病と関連があることをこの連載で既に紹介したが、動脈硬化の原因にもなりかねないのだ。
 バージャー病は、喫煙が症状悪化の要因でもある。BさんとCさんは当初、岩井さんに「禁煙が一番の薬です」と強く勧められたものの、やめられなかった。症状が進んで「たばこはこりごり」と言う2人は禁煙し、今後、歯周病の治療を受けることにしている。

バージャー病
 喫煙者の男性に多く、20〜40歳代で発症しやすい。治療法は確立されていないが、禁煙で症状悪化が抑えられる場合が多い。口腔ケアが進んだ国では患者が減少する傾向がある。国内の患者は約1万人で、治療費が公費負担になる国の特定疾患(難病)に指定されている。




2005年11月25日の読売新聞より