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シリーズ歯科 歯と全身の病5
口腔ケアが肺炎防ぐ

 長期入院の高齢者が多い千葉県成田市の病院で、東京歯科大市川総合病院(同県市川市)の歯科医、渡辺裕さんは7年前、病棟内の強い臭気に首をかしげた。
 「排せつ物のにおいでは」と思うほど。原因は、患者の口に増殖した細菌や、蓄積した分泌物だった。
 病院側の依頼で、入院患者に口の消毒やマッサージなどの口腔ケアを定期的に続けるうち、においはすっかり消えた。
 さらに、別の変化が起きた。抗菌剤が効かないMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)で肺炎などになった患者が、以前は毎月10人前後いたのに、3か月後には3人に減ったのだ。
 脳梗塞などで、食物や水分を飲み込む嚥下(えんげ)機能が低下し、腹部に空けた穴から管で栄養剤を胃に直接入れる「胃ろう」などを設けた患者は、十分な口腔ケアを受けていない場合が多い。渡辺さんは「食べられなくなった人ほど、ケアが必要です」と強調する。
 口を使わないと唾液が減り、口腔内の殺菌力が弱まる。さらに歯茎が細り、粘膜の抵抗力が落ちる。するとMRSAだけでなく、緑のう菌や歯周病菌など、口腔内の常在細菌が異常増殖する。
 食物を取らない人の口を放置すると「2週間で舌がカビで覆われる」と渡辺さん。これらのカビや細菌が気管に入れば、致命的な肺炎につながりかねない。
 こうした「誤嚥(ごえん)性肺炎」を防ぐため、市川総合病院では、歯科医や歯科衛生士が病棟を回り、患者の口腔ケアを続けている。
 3年前に起こした脳梗塞がきっかけで、胃ろうで栄養をとるD子さん(82)は、たんに詰まりから体調を崩し、先月入院した。3週間の入院中、看護士による歯磨きに加え、歯科衛生士の馬場里奈さんから、週2回の口腔ケアを受けた。
 馬場さんはまず、消毒用の綿でD子さんの口の周りを丹念にふく。MRSAなどを口に入れないためで、続いて氷入りの消毒液に浸した綿で歯茎や歯、舌などをふいていく。消毒液を冷やすのは「口内に適度な刺激を与えるため」という。さらに、指でほおの内側などをマッサージ。患者1人に20〜30分かける。
 退院後も同病院で定期的な口腔ケアを受け、口を閉じたり、呼吸を一時止めたりする嚥下機能訓練をするうち、ゼリー状の食べ物を飲み込めるようになった。
 口の衛生状態の改善と嚥下機能の回復で、肺炎は予防できる。病院、老人ホームや自宅でも、口腔ケアの見直しが求められている。



誤嚥性肺炎
 高齢者や脳卒中の患者に多い。嚥下機能の低下で、口腔内の常在細菌や分泌物、胃液などが少しずつ肺に吸い込まれ、発症するケースが多い。食事も注意が必要で、汁物などに「とろみ」をつけたり、ゼリー状にしたりすると誤嚥を起こしにくい。


2005年11月26日の読売新聞より